国民が貧困にならなければ、国家は赤字になっても構わない【中野剛志×黒野伸一】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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国民が貧困にならなければ、国家は赤字になっても構わない【中野剛志×黒野伸一】

この国はどうなる!? ポストコロナとMMT【対談第3回】

 

中野:この間、日本は、ワクチンの開発ができなかったわけです。自分の国を自分で守れない。国立大学を独立行政法人にして民間ビジネスのセンスを入れて効率化すると言って、研究開発の予算も抑制し、若手研究者の雇用も不安定にしてきましたから、研究論文数もどんどん減っていますよね。ましてや医薬品の開発なんて莫大なお金がかかるわけで、そんなものにお金を回している余裕はありませんということになって、その結果がこれなんですよ。

 

黒野:日本って、昔は科学技術立国で、基礎科学は比較的弱いけど、応用科学は強くて、ソニーのウォークマンにしろ、ビデオのVHSにしろ、世界を席巻していたし、家電なんて全部日本が強かった。それだけの技術立国が、なんでこんなになってしまったのか。

 

中野:理由は、二つあって、一つは、公的な研究開発費を十分に増やしてこなかった。これは「小さな政府」とか財政健全化のせいですよね。アメリカはIT革命で成功して、デジタルでGAFAとか出てきてすごいことになっていますけど、ご承知の通り、アメリカが産業政策をやっていないというのはウソで、インターネットがまさにいい例ですが、IT関係のイノベーションの多くは軍事技術の転用ですから。IT革命やGAFAの出現は、軍事的な産業政策をガンガンやった結果です。それが証拠に、アメリカでもイスラエルでも中国でもそうですけど、ITが強いのは軍事大国が多い。日本みたいな平和国家がIT大国になることは不可能です。

 次に民間企業。民間企業がダメになったのは二つで、一つはR&Dと設備投資を十分にしてこなかった。これは企業経営のせいではありません。デフレのせいです。デフレとは、需要が乏しいので、設備投資を控えざるを得ないという状況になります。また、デフレとは貨幣価値が上がることですから、支出より貯蓄の方が経済合理的という経済状態だということです。そんな状況では、長期的な投資などできない。

 もう一つは、構造改革によって企業の経営システムが破壊されたせいです。コーポレート・ガバナンス改革とかいって、株主の権限を強くしてきた。技術なんか自分の所で開発しないで外から買ってくればいい、アウトソースすればいいんだという風潮になった。ROE(自己資金利益率)を高めましょうとか言っていますが、そんなもの、研究開発費を削ればROEが高まるに決まっているんです。その結果、企業はみんな長期的な投資を避けて、短期的な投資に走るようになった。これは、経済構造改革とか日本型経営システムを改革するんだと言ってやった結果です。

 80年代まで、日本企業の技術開発力の何がすごかったかといえば、これはよく知られている話で、その当時の日本企業は、欧米企業に比べて、短期的な投資よりも長期的な投資をより優先していた。短期的には非効率かもしれないけれども、長期的には勝っていた。ところがそれを、「日本企業はROEが低いからダメなんだ」とかいって逆向きにしてしまって、アメリカを見習って株主資本主義にしたのが構造改革だったんです。そんな構造改革を二十年もやってきたのですが、最近になって、ダボス会議で「シェアホルダー資本主義はやめてステイクホルダー資本主義にすべきです」とかなんとか言われたり、SDGsが流行り出したりするなど、世界の方が先に反転してしまった。いったい、日本は、何をやってきたのか。要するに、ここに至るまで、日本はあらゆる改革をそのすべてにおいて系統的に間違えてきたということです。

 

黒野:“今だけ、金だけ”でやってきてしまったツケが来たということですね。昔は違ったのに。

 

中野:「日本企業はリスクをとらない」とか嘆いていますが、自分たちでリスクをとれないように改革をしてきたわけです。

 

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